おいしい毎日

毎日のこといろいろ。ラグビー好き!

逝く父

カーネーションで糸子の父善作の死を匂わせる最後
そう思ってみるとすべてがそこに繋がる
泰蔵の見送りが今生の別れになるかもと思ったのは
自分のなかにもなにかの予感があったのかも
いつも楽しく集まっていた男たちと最後の旅行をというのもありだし
もっと穿った観方をすればまるで死期を悟った猫の様だとも思える
いつもいつも苦労をかけた糸子に最後の最後だけは
苦労をかけたくないとどこかで思ったかもしれないなどとも感じて・・・


全然そんなことと繋がる思い出はないのに
父の最期を思い出す
色々な治療をしたあとある種の覚悟をして過ごした自宅での6カ月


大きな病院で治療漬けだった頃はおじいちゃんじゃなく見えて
あまり近寄りたくなかったとあとで語った長男
近くの病院で日常へのリハビリをしてそのあとは訪問看護を受けながらの日々
輸血や小さな処置のひとつひとつに交わされる説明と承諾書、同意書
何パーセントとか何人にひとりとかいう説明に反感を抱き
いまの父にとって本当に必要なことなのかいいことなのかを教えてくださいと
若い医師に詰め寄っていた私
ホスピスを持つ近くの病院では本人告知を大原則としていて
それに対してどうしてもできないと食い下がった私
父が転院する間際に転勤することになった若い医師は
お別れの挨拶をしにいったときに医者として大事なことを考えさせてもらった
と言ってくれた
父が息を引き取ったその日、ずっと通ってくれた訪問看護の医師は
玄関で見送ったわたしに「あなたもよく頑張られましたね」と声を掛けてくれた


母にできなかったことをすこしだけ父にはできたかも・・と思えた日
父と母にもらったものがあったおかげでこんなことができたと思えた日々


亡くなる数日前に突然ずっとやめていた煙草が吸いたいと言い始めた父
自分で火をつけることもままならず
ひとにつけてもらったロングピースを美味しそうにすこしだけ燻らせていた父
その数日後、私が風邪を引いて煙草の煙も苦しいというのに
同じ部屋で見守るために一緒に寝ている私のことなどお構いなしに煙草をねだる父
あんまり口惜しいので一度だけ呼ぶ声を無視していると
「○○く〜ん、○○く〜ん!」とダンナの名まえを呼んでいる
なんだ・・
わたしでなくてもよかったんだ・・と拍子抜けしたような気持ちの後
そうか、もうとっくに父の中では彼は息子になっていたんだと
そのときやっとわかった



父が亡くなってから長いこと
命日の数日前になるとその部屋に寝ている私は
そのときのことを思い出して胸が痛んでいた
あのときの空気を吸うのだ
何度も同じ空気を感じるのだ


今年は不思議と忘れていた
時が経ったんだな・・と思った
時はいつか懐かしく愛おしい想いだけを残して
記憶を思い出に変えてくれるのだ
思い出すたびにまだ涙は出るけど・・・